なぜハラスメント問題は深刻化するのか

ハラスメントという概念が社会に定着してそれなりに長い時間が経ちますが、ハラスメント問題は決してなくなってはいません。それどころか、種類によっては深刻化しているものもあります。全体の傾向だけでなく、個々の事例をとってみても、深刻さの度合いは増しているようです。なぜ、ハラスメント問題は深刻化してしまうのでしょうか。

ここまで、ハラスメントが起きる構造について何度かお話してきました。上下関係のもとに起こるという特性から、不快に思うことがあっても弱い立場でははっきりとその意思を示しにくいものです。特に日本社会では、空気を読むことや和を乱さないということが非常に重視されること、また、目上の人には失礼のない態度をとらねばならないという風潮もあるので、はっきり「NO」と言うことがとても難しくなります。そのため、悪気ない言動でもハラスメントにまで発展してしまいやすいという社会風土があります。

環境型セクハラのように、周囲の不特定多数に向けたハラスメントもありますが、一般的なセクハラやパワハラ、特にモラハラ被害は特定の個人に向けたものが多いです。加害者は被害者以外の人には良い顔しか見せないことも多いため、被害者だけが苦しむことになります。また、被害者が周囲の人に相談しても、加害者の外面の良さゆえに信じてもらえなかったりするので、被害者は誰かに相談することをやめてしまいます。そのため、被害が明るみに出ないまま、どんどん深刻化していくことになってしまいます。

また、被害を受けている人の方が悪いという考え方が世の中にはあることも、被害が深刻化してしまう大きな要因です。いじめられる方にも原因があるというのとまったく同じで、原因があったらいじめていいわけではないのですが、世間には根強くこの考え方が残っています。心身ともに疲れ切ってもう耐えられないと思って勇気を出して身近な人に相談しても、「あなたにも原因があるんじゃないの?」という反応が返ってくる経験をしたハラスメント被害者は大勢います。

パワハラ被害について話した場合は「なぜ、そこまで怒らせてしまったの?」「厳しく指導してもらえるうちが花だよ」などと言われがちです。セクハラ被害の場合は「誘ってると勘違いされるようなことしたんじゃないの?」「それくらい、うまくかわせるようになって一人前だよ」というような反応が非常に多いです。これらは二次被害といって、被害者の傷つきを強めて社会復帰を難しくさせてしまいます。

より悪質な加害者の場合、被害者が精神的につぶれてしまって学校なり会社なりを辞めて去っていったとしても、また別のターゲットを見つけて、ハラスメントを繰り返すことが多々あります。これは、加害者の方に問題がある証拠に他なりません。

加害者がなぜ加害者になったかというと、加害者自身にも成育歴の中で親や先生など立場が上の人から虐待やハラスメントを受けてきたという事情がある場合が多いのです。加害者にも傷つきがあるのは事実でしょう。だからといって、ハラスメントを許すわけにはいかないのですが…。

ハラスメントを深刻化させるのは、加害者だけではないのがお分かりいただけたでしょうか。日本社会の風潮、ハラスメントを許すような職場や学校内の風土、安易な慰め(のつもりの二次被害)などによって、被害が進行してしまうのです。

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女性蔑視?女の敵は女?性差ではなく個人差が大事

ハラスメントという概念が日本に取り入れられたのは、セクハラが最初でした。そして、セクハラの被害者は女性、加害者は男性というパターンが数としては多いので、男性の女性に対する言動が問題にされる機会が増えました。このような風潮に対し、おもしろくない思いを抱えている男性もいるでしょう。

なぜ男側ばかりが女性に気を使わなければならないのか。相手の受け取り方次第で何でもセクハラと言われてしまうなら、本当はなんとも思っていないのに嫌がらせでセクハラ加害者に仕立て上げることも可能ではないか、そんな定義はおかしいのではないかと考えるのも、分からないではありません。

女性蔑視という言葉がありますが、これは元々社会の中で女性の権利がじゅうぶんではなかったという現実からうまれた概念です。しかし、セクハラを盾に女性に対して何も言わせない風潮が行き過ぎてしまうと、逆に女性の方が強いじゃないかと感じ、女性蔑視という言葉に嫌悪感を抱く人も出てきます。

また、女性同士でもハラスメントに対する考えの違いから、敵対してしまうことがあります。男性社会の中で孤軍奮闘してキャリアを築き上げてきたような能力の高い女性は、セクハラなどに苦しむ女性に対して、理解に苦しむことがあります。自分自身が辛いことも乗り越えてきたため、誰だって自分と同じように努力すればセクハラも跳ね返せる、すなわちセクハラに悩むのは努力不足だったり心が弱いからだと考える傾向があります。

女性の中には結婚して家庭に入り子育てをするのが幸せと感じる人もいれば、子どもがいると思う存分仕事ができないから子どもはいらないという人もいます。育児と仕事を両立させたいと考える人もいます。どの考えが良いとか悪いとかいうものではありません。

家事育児に専念したい人は、子どもを預けて働いている人を見て「子どもがかわいそう」と思うかもしれません。一方、仕事を人生の中心に考えたい人は、専業主婦がいるから、いつまでも「女性の役割は家事育児」という固定観念がなくならず、女性が働きにくいのだと憎々しく思うこともあるかもしれません。女の敵は女と言いますが、このような現状を思うと、言い得て妙です。

このように、男性も女性もハラスメントや性役割に関して、それぞれに思うところがあります。お互いを傷つけあいたいわけではないのに、なぜ男性vs女性もしくは女性vs女性で対立してしまうのでしょうか。問題は、「女性」「男性」と一括りに考えてしまうことにあるのです。

女性の中にいろいろなタイプがあるのは上にも少し書きましたが、男性も同様です。繊細な料理が得意だけど力は弱いという男性もいれば、涙もろい男性だっています。専業「主夫」に向いている男性も現に存在します。女性の中にだって、性的な話題も全然気にせず大っぴらに何でも話せる人もいます。

要は、性別で括らず、個人差に注目してそれを尊重する態度が必要だということです。「男だから」「女だから」という考えは固定観念にすぎず、誰の中にも当てはまるところとそうでないところがあるはずです。また、同じ性別だから、自分と同じはずと考えるのも正しくありません。

仲が良く何でも話せる相手には下ネタ話も問題なかったからといって、別の人に同じ話をしたらセクハラになるかもしれません。自分のつわりが軽かったからといって、つわりで苦しむ人に「甘えてる」と言うのはマタハラです。

このように、性別で一概に考えず、「私はこうだったけど、あの人は違うかも」「この人にはOKだったけど、あの人にはダメかも」という視点を常に忘れないことが、ハラスメントのない社会の第一歩です。

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パワハラは一種の洗脳です。ブラック企業によくあるケース

ハラスメントの中でも、職場におけるパワー・ハラスメント(以下パワハラ)は、悪質なものだと本当にやっかいな問題にまで発展してしまいます。

現在は大きな会社だと社内研修でハラスメント防止の啓発がなされたり、相談室が設置されたりするところもあります。しかし、小さな会社や特にブラック企業と呼ばれるような職場では、残念なことにハラスメントが後を絶たず、中でもパワハラは大きな問題です。

小さな会社だと人数が少ない分、お互いにモニタリングしてハラスメントを予防するという組織的な動きがしにくいため、一人のハラスメント的暴走を止められないことにつながってしまいやすいのです。

特にブラック企業でのパワハラは、そうでない職場のパワハラよりも一段と問題が深刻化しやすい構造になっています。

ブラック企業では、残業代を支払わなかったり、時給換算すると最低賃金を下回っていたりと、少ない給料で働かせます。また、無期限雇用ではなく期限付きの契約更新型にして、会社にとって面倒になったらいつでもクビを切れるような不安定な身分で働かせています。

ブラック企業の社員は、なぜこのような法的にも問題のある雇用契約でも、文句も言わず働いてしまうのでしょうか。その根底に、パワハラが潜んでいることが意外にも多いのです。

パワハラ加害者は被害者に対して大声で怒鳴ったり、物を投げつけたり、到底終わらないような量の仕事を押し付けたり、逆に仕事を与えなかったりすることによって、肉体的に疲弊させ、さらに精神的に恐怖心を植え付けます。こうして、会社に対しておかしいと思うことがあったとしても、反発する体力や気力を奪います。

さらに、社員に対して「バカ」「死ね」「何をやらせてもダメだな」「お前なんかを雇ってあげるのは、この会社くらい」「ほかに行っても、どうせ使い物にならない」など、その能力や人格を徹底的におとしめます。これはまったく事実ではありません。それでも、このような罵声を浴びせられる環境にいると、人は「やっぱり自分はダメな人間なんだ」「ここでしか雇ってもらえないんだ」「生活もあるし、仕事がなくなると困るからここにかじりつくしかない」という考えに陥ってしまいます。

こうして、パワハラによってブラック企業から逃げられないように洗脳されてしまうのです。会社としては安い賃金で都合よく働かせ、被害者が過労やハラスメント被害によって心身を病んで出社できなくなれば、あっさり退職させて、また新しいターゲットを使い捨てにするというサイクルなのです。

被害者はパワハラと身体的な過労が重なっているうえに、パワハラによる洗脳で自尊心をズタズタにされていますから、休養だけでなくメンタル的な治療が必要になることも多いです。さらに再就職先を探そうにも、どこへ行っても使い物にならないと言われているので、本当にそうかもしれないと思い込まされ、二の足を踏むことになりがちです。こうして、社会復帰までに時間がかかってしまうことが多く、ブラック企業でのパワハラは、ただのハラスメントよりも悪質と言えるのです。

パワハラで受けた暴言はまったく事実ではありません。雇用条件に問題があるのでは?と思ったり、会社で言われていることが理不尽だと感じたら、疲労が大きくなったり洗脳されたりする前に相談窓口へ行くことを強くお勧めします。

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家庭にもハラスメントは存在する!モラル・ハラスメントの実態

ハラスメントは一般的に職場や学校の中で起きることが多いですが、家庭の中にも存在します。それはモラル・ハラスメントと呼ばれるものです。

モラル・ハラスメント(以下モラハラ)とは、一体どんなものでしょうか。セクハラなどと違って、ちょっと漠然としていて分かりにくい概念ですね。モラハラは外側からは分かりにくい種類の精神的ないじめなので、実際に被害に遭うか、身近に当事者がいないと分からないのも無理はありません。

モラハラは既存の言葉でわかりやすく表現するならば、精神的なDV(ドメスティック・バイオレンス)と同じようなものです。身体的な暴力は伴わないことが多いのですが、精神的に暴力をふるい、相手の尊厳を奪い、コントロールするものです。

ハラスメントは上下関係のもとに起こると説明してきました。家庭の中の上下関係とは、どんなものでしょうか。親子には上下関係がありますが、親子間のモラハラはどちらかと言えば精神的虐待として認識されているので、ここでは触れないことにします。一般的に家庭内のモラハラとして問題になるのは、夫婦間のものです。

夫婦は本来平等な関係のはずですが、モラハラ加害者は自分が配偶者よりも優位に立とうとします。時間をかけて少しずつ相手を弱い立場に追いやり、精神的に支配します。

具体的には、このような言動がモラハラとなります。たとえば、妻が休日の朝に夫を起こそうとして、「休みなんだからゆっくり寝かせろ!」と怒らせてしまったとします。妻はそれもそうだと思い、次の休みには起こさずにゆっくり寝かせました。昼近くになって起きてきた夫は妻に「なぜ起こさなかったんだ!お前のせいでせっかくの休みを無駄に過ごすことになっただろう!」と怒ります。

何かにつけて、このような調子で理由がよく分からないままに怒られたり、機嫌を損ねられたり、無視されたりするので、妻は夫に恐怖心を抱くようになります。このような状態が続くと、妻はどうしたらよいか分からなくなり、次第に夫を怒らせないように顔色をうかがって、ビクビクして過ごさなければならなくなります。これがモラハラ被害です。

さらにモラハラ加害者は、自分をとても能力のある人間だと思っていることが多く(根拠がないことが多いのですが)、いかに優れているかを被害者に伝え続けます。すでに恐怖心を植え付けられ、洗脳されている被害者は、やはりこの人はすごいんだ、怒られるのは私が劣っているから仕方ないのだと自分を責めます。

モラハラ加害者は、被害者以外には良い人だったりもするので、周りからは「いい旦那さんでうらやましい!」などと言われ、ますます他人には被害を話しにくくなります。これがモラハラ被害が表に見えにくくなる要因のひとつです。

モラハラ加害者は非常に嫉妬深いのも特徴です。自分以外の人といるときに楽しそうにしている被害者を見ると、「もうあいつと会うな」と言ったりします。こうして精神的にだけでなく、行動面でもコントロールしようとします。

モラハラ被害に遭っていると、しだいに心身ともに調子を崩すようになります。配偶者に恐怖を感じ、体調や心の調子が悪いという人は気づかぬうちにモラハラ被害者になっているのかもしれません。あまり無理はせず、早めにどこかに相談に行かれることをおすすめします。

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