加害者にも被害者にもならないためにできること

誰だってハラスメントの被害者にも加害者にもなりたくはないはずです。どうしたら、それが実現できるのでしょうか。

強い悪意を持った加害者というのは、意外に少ないものです。多くのケースで、知らず知らずのうちに加害者になってしまっていたという状況が見受けられます。主たる加害者もそうですし、二次被害の加害者にいつの間にかなっていたというケースは枚挙にいとまがありません。

まず、主たる加害者にならないためには、ハラスメントの構造をよく理解することが前提です。特に自分よりも立場が下の人と接するときに、相手が不快に思うような言動をしていないか気を付けることです。自分では何とも思っていないことでも、相手によっては負担だということも、もちろんあります。そうならないように、日頃から何でも気軽に話してもらえるような関係性を作る努力は不可欠です。

そんなつもりはないまま二次被害の加害者になった場合、そのこと自体に気づかないことも非常に多いです。突然連絡がなくなったけど、どうしたんだろう?と思っている間に疎遠になっていくケースが多いので、これだと自分が相手を傷つけたということを知らないまま時だけが過ぎていきます。

もし、友達や家族からハラスメントの悩みを打ち明けられたら、まずは味方になってあげてください。明るさを装っていても、相手は決死の覚悟であなたに話しているのです。そこで否定されたり自分にも非があるというようなことを言われると、被害者は周りからは想像がつかないほど深く傷ついてしまいます。

相談を受けたら中立の立場に立たなければと思う人が意外に多いのですが、ハラスメント加害者が直接の知り合いではない場合、自分にとって大事なのは直接の知り合いである被害者の方であるはずです。会ったこともない、どんな人かも分からない加害者と、これまで仲良く過ごしてきた被害者とを、同じに考えるのはおかしいはずです。加害者の味方には加害者の知り合いがなりますから、あなたは家族や友達である被害者の味方になってあげましょう。このことを忘れないようにすると、知らず知らずのうちに二次加害者になっているということはなくなります。

次に、被害者にならないための秘訣です。自分がどんな人物かということを周りに知っておいてもらうことは、ハラスメント防止に役立ちます。「私、下ネタはちょっと苦手なんです」とか「お酒飲めないんです」とあらかじめ伝えておくと、まともな相手なら配慮して付き合ってくれます。

また、不快だなと思ったときに相手に伝えるようにするのも、被害をエスカレートさせないためには重要です。目上の立場の相手だとなかなか難しいですが、相手は言われて初めて不快にさせていたと気づくことが多いので、少なくとも1度は不快だという意思を示しておく必要があります。

それでもハラスメントが治まらない場合は、記録をつけることがとても大切です。日付・時間・場所・ハラスメントの内容・その時自分が感じたことを記録しておきます。そして、周囲の人に相談します。あなたが不快に思っていたということを知っている人がいることは、万が一、裁判などになった場合、証拠になります。記録も同様です。

もちろん、ここまで問題が発展してしまう前に、関係機関に相談しましょう。少なくとも重篤な被害者になってしまうことは避けられます。

ハラスメントの被害者にも加害者にもならないためには、相手が何を不快だと思うかをよく知ることです。考えてみれば、これはすべての人間関係の基本ですよね。大事なのは思いやりの気持ちです。この基本を守って、ハラスメントのない社会にしていきましょう。

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実録!ハラッサーとの対決④いよいよ決着!

③からの続きです。

労働基準監督署の職員さんは、私の話を否定せずゆっくりと聞いてくれました。セクハラの具体的な内容をお話するのはすごく恥ずかしかったけど、「それも重要な情報だから」と言われ、恥を忍んで話しました。そして、やはり社長の「明日から来なくていい」という言葉は不当解雇に当たるだろうとのことでした。

無断欠勤など勤務態度に問題がある場合は別ですが、会社の都合で解雇する場合は30日以上前に予告をするか、「明日からクビ」という場合は30日分のお給料を支払わなければならないという法律があるそうです。そして、労働基準監督署がそのための指導を会社にしてくれるとのことでした。

私のせいで公的機関が動き、会社に指導が入るなんて、社長に仕返しされたらどうしようという不安も少しはありましたが、ほどなくして意外にもすんなりと解雇予告手当として30日分のお給料が振り込まれました。

さらに、労働基準監督署の職員さんから「あなたのケースでは、おそらくハラスメントがあったと認められると思います。法テラスや労働局で紛争解決の場を設けてもらえるから、ハラスメントのことも解決したいならそちらに行ってみてください」と言われ、労働局に行くことにしました。

労働局でも会社であったことを話し、文章にまとめました。そして「あっせん」という制度を利用することにしました。細かい手続きは割愛しますが、職員さんに教えられて文書を作り、会社に郵送して紛争を開始させました。

あっせんは、労働局の職員さんや弁護士さんなどが私と社長(本人は出てこず、代理人弁護士でした)の話を交互に聞いて、和解に向けて話し合いを進めてくれるという形で行われました。私の主張は、セクハラやパワハラがあったと認めて謝罪してほしいということと、今後社内でハラスメントをしないと誓ってほしいという2点でした。

社長側の主張は、「ハラスメントと言えるかどうか分からないけど、傷つけたのなら遺憾の意を表します」という微妙なものでした。あっせんの弁護士さんがハラスメントの定義を説明し、本人がこれほど傷ついているのだからハラスメントと言えるのでは?ととりなしてくれ、最終的には社長側もハラスメントの存在を認めました。

そして、私の中で最も重要な「もう二度とハラスメントを繰り返さないでほしい」という点については、「鋭意努力します」という回答でした。これも微妙というか、心が感じられないとは思いましたが、社長側もプライドがあるのだろうと思い、これにて和解となりました。

私としては、和解ができなければ民事訴訟も考えていました。でも、そこまでいかずに短期間ですべて無料で済んだことはありがたかったです。

ある友人には「そこまでやったの?ユキってこわい!」と言われました。とても傷つきましたが、後悔はまったくありません。むしろ、泣き寝入りせず、やってよかったと心の底から思います。

公的機関や弁護士さんたちが、私が受けたのはセクハラだと認めてくれたこと、社長も認めて一応謝ってくれたことが、私の回復にはとても大きな意味がありました。本当に社長がハラスメントを繰り返していないかは分かりません。それでも、社長の社員への態度に一石を投じたのは間違いないはずです。泣き寝入りしていたら、私は今でも心身ともに傷ついたままだったかもしれません。

今ハラスメントで苦しんでいる人も、どうか諦めないでどこかへ相談してみてほしいと思います。応援してくれる人がきっとどこかにいるはずです。

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実録!ハラッサーとの対決③泣き寝入りはしない!

②からの続きです。

突然「明日から来なくていい」と言われ、私はパニックになりました。もう一度会社に電話をし直しましたが、電話に出た社員に社長に替わってほしいと伝えると、「社長はユキちゃんから電話があっても取り次ぐなって言ってるから…」と言って切られてしまいました。

あまりのことに意味が分からず、せめてどうして急にクビ宣告をされることになったのか、社内の状況だけでも知りたいと思い、以前セクハラの相談をしたことがある先輩の携帯に個人的にメールしました。すると、今日の退社後に社長には内緒で会ってもらえることになりました。

家まで来てもらい、会社の状況を聞きました。私が今日欠勤すると連絡をした後、社長は突然怒り出したといいます。「なんだあいつは!俺が何度誘ってやっても体調が悪いと言って逃げてばかりで!仕事からも逃げるつもりか。どうせこれからも逃げるんだろうから、そんなやつこっちからクビ切ってやる!」と言って、私に電話をしたそうです。

先輩は、その社長の言葉を聞いて初めて、私が社長に誘われて断っていることを知ったそうですが、やっぱりそうかという思いもあったそうです。私がセクハラの相談をしたときにも「これまで何人も若い女の子が社長のセクハラが原因で辞めていった」と言っていましたが、彼女たちからも相談されたことがあったため、社長のセクハラのパターンをある程度知っていたのです。

そして先輩はこう言ってくれました。「社長がいったんああ言い出したら、もう会社に戻ることは難しいと思う。戻ったところでユキちゃんも辛いでしょ?でも、失業手当の手続きもあるし、その書類の準備は私がやってあげるから、身体も辛いと思うけどお金だけでも受け取った方がいいよ。それから、セクハラとかのこと相談できるところがあるみたいだよ。詳しくは私も分からないけど、興味あるなら調べてみて」。

先輩の言葉のおかげで、少しずつ頭がクリアになってきました。社内の雰囲気的にも、私が戻るのは厳しいことを理解しました。先輩が言うように、確かに私はもう社長のハラスメントには耐えられなくなっていました。会社にかじりつくよりも、失業手当をもらいながら、社長にされたことがどういうことなのか、私の人生はこれからどうなっていくのか、ゆっくり整理したいという気持ちに少しずつですがなれました。

そして、セクハラなどを相談できるところを調べました。インターネットで「セクハラ 相談窓口」で検索したら、たくさんの情報が出てきました。いろいろ調べていくうちに、私のように突然「来なくていい」と言われるケースは法的に問題がある可能性があるということが分かりました。セクハラやパワハラだけでなく、クビ宣告のことを相談できるのは労働基準監督署だということも分かり、そこに相談に行ってみることにしました。

相談に行くことを決めた頃には、不思議と身体の重さがなくなっていました。漠然と闘おうという意志が芽生え始めたのもこの頃だったと思います。社長への怒りもありましたが、先輩の「何人もの子が社長のセクハラが原因で辞めていった」という言葉が強く印象に残っていました。

今まで私のような思いをした人が何人もいたにもかかわらず、社長や会社は何の改善措置もとってこなかったということに怒りを感じました。私が泣き寝入りしたら、きっとこれからも同じことが繰り返されます。本当に心も身体も辛かったので、もう同じ辛さを味わう人がこれ以上出てほしくないと強く思いました。そして、会社で起こったことを覚えている限りすべて、労働基準監督署の職員さんにお話しました。④へ続きます。

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実録!ハラッサーとの対決②寝耳に水のクビ騒動

①からの続きです。

私にはこの会社に入った時点では彼氏がいて、そのことは社長も知っていました。でも社長にセクハラをされていることは、彼氏にはどうしても言うことができませんでした。セクハラを知った彼氏が悲しい思いをするんじゃないかと不安だったのと、社長に文句を言ってやると言い出されたら…と怖かったからです。そして何より、先輩に相談して余計に傷ついた経験もあり、もし彼氏にも同じように私の我慢が足りないと言われてしまったら、生きていけないほどのショックを受けると感じていました。それが怖くて、どうしても話せませんでした。

そして、体調が悪くなるにつれ休日も寝て過ごすことが多くなり、彼氏と会う体力も気力もなくなってしまい、ついには別れることになりました。彼氏は心配もしてくれましたが、私となかなか会えなくなって寂しく、放っておかれているという不満も持っていたようでした。その申し訳なさからこちらから別れを切り出す頃には、すでに私から気持ちが離れていたように思います。別れたことで喪失感もありましたが、それよりも自分を保つことで精一杯でした。もちろん、社長には別れたことは内緒にしていました。

セクハラは相変わらず続きました。というより、どんどん酷くなっていきました。「この後二人だけで飲みに行こう」と言われたり、休日に電話がかかってきて「今から会おう」と誘われることもありました。社外で二人だけで会うなんてことをしたら、間違いなく襲われると思いました。「体調が悪いので…」と断っていましたが、断るたびに社長の機嫌が悪くなるので、それもすごくつらかったです。

朝になると、吐き気や頭痛もするようになりました。仕事は必死にやっているつもりでしたが、寝不足でぼうっとしてしまうせいでミスもありました。社長はセクハラをしたり誘ってくるときは、とても甘い猫なで声なのですが、私がミスをしたりすると一変して「このバカ!」などと怒鳴ることもありました。私は社長が怖かったです。

誘われるままに応じれば、社長は私を怒鳴ったり無視したりしなくなるのかな。その方がたぶん会社の雰囲気もよくなる。仕事もしやすくなるかもしれないなんて考えることもありました。でも、やはりどうしても社長と二人で会うのは嫌でした。今思うと、この選択は正しかったと思います。二人で会っていたら、やはりもっとひどい性的被害に及んだと思うからです。

その日は突然やってきました。ある朝起きようとすると、起き上がれなくなっていたのです。やっとのことで身体を起こし、出社する準備をしなければと考えたら、涙がどっと溢れてきました。止めようとしても止まらず、自分でも訳が分かりませんでした。しばらくそのまま泣いていたと思います。そして、ああもう無理かもしれないと感じ始めました。頭の片隅で、こんなに泣けてしまうくらい、ずっと無理を重ねていたんだ、自分でも気付かなかったけど、ここまで社長のストレスは大きいものだったんだと考えていました。

始業時間も迫っていたので、「体調が悪いので今日は欠勤させてほしい」と電話をしました。電話に出た事務の先輩が、私の仕事を代わってくれることになりました。欠勤は、入社以来これが初めてのことでした。先輩に迷惑をかけてしまった、明日は絶対に行かないと…と考えていると、折り返し社長から電話がかかってきました。

社長は「お前、明日からもう来なくていい」と言いました。頭が真っ白になりました。「どういうことですか?」と聞き返すと、社長は「お前はもううちではいらないから。早く身体治せよ~。それじゃあな」と言って電話は切れました。③に続きます。

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